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心の万華鏡  

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2017年 06月 23日

幾千もの夜を越えて

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いつの頃からか 遠いところから 声が聞こえる

気がついたら 耳の中で木霊していたのだ

それは 地の底から響いてくるようでもあり あの青い空から落ちてくるようでもあり

初めは戸惑った

何の前触れもなく 不意に耳元で声がするのだもの

小さな甘い声 だけど 何かとてもつもない力を秘めているようなその声

何故?なぜ?私なのか どうして聞こえるのか

そんなことを問いかけても答えなど有りはしない

ただ 耳元で 囁くように 言うのだ

1日に1回 それは始まったのだ

だんだんと私は それに 慣れていった

耳の中で声がするという現実を 信じられなかったのかも知れない

どうかしたらその声はピタリと止んで 長い間聞こえないこともあった

そしてまた 不意に始まるのだ ちょうど音楽でもかけたように

そのうち 言葉は同じことを繰り返すようになった

もうすぐです もうすぐ 待っていてください

何がもう直ぐなのか 何を待つのか 私はぞっとした

もうすぐ やってくるのか?

待っていろとは?

初めは怖かったが やがてそれにも慣れた

そしてそんなことは頭の隅に追いやって やがて忘れてしまった

声が聞こえても 深く考えず 無視していた もちろん声はいつも一方通行で 何を問いかけても答えなど返ってこないのだが

だから安心していられたのだ

現実に存在しない世界の声だから

私のどこかがちょっとおかしいのだろう それくらいにしか思っていなかった

しかし

そうではなかった

私はある夜 その声を聞いて 突然思い出したのだ

思い出すというより 遺伝子レベルでの遠い遠い記憶を 探り当ててしまったのだ

もう遥かな遠い遠い過去

いつの時代かも定かではないが

私は その時代 確かにそこに存在していた

今の私ではなかったが 私だったのだ

一旦探り当てた記憶は 日に日に鮮明になっていった

頭の上で鳴いていた雲雀 足元の草の芳しい香り

そしてその時の暖かい日差しと あのひとの声

遠い山はキラキラと輝いて 雲はやはり真っ白に浮かんでいた

そんな細かいことは映画のように目の前に現れるのに あのひとの顔だけが思い出せない

長い髪を無造作にかきあげる白い手まで見えるのに 思い出せないのだ

そして 私は目の前の人との関わりも思い出せなかった

どんな関係だったのだろう わたしとこのひとは

ただただ だまって見つめるだけの自分が見えていた

そして 今 声は言うのだ 待っていてと もう直ぐだと

私は心が躍った その反面 恐ろしかった

いったいあのひとはやってくるのだろうか

くるとしたらどこから?あの遥かな時代から?

そんなことがあるのだろうか

そして もう直ぐとは?どれくらい直ぐなのだろう

笑い話ではないけれど 考え始めたら眠れない

もう声はすぐそばまで来ていそうに聞こえる 

早く!!早く来てくれ!

私は今では懇願するようになっていた

暗く風の強いある晩

激しくドアが揺すぶられた そして かすかなノックの音

それはだんだん大きく 確固たる意志を持った音に変わった

ああ!とうとう!来たのだ

私はあの女(ひと)の顔を思い出そうと心を躍らせたのだが

不意に 不意に ある考えが心に浮かんだ

私は 仇かもしれない もしかしたら

そう もしかしたら 

そのものは 私を殺しに来たのかもしれない

不意に 首筋がぞわりとした

ドアはますます大きくノックされて このままでは突き破られるのではと思えた

声が聞こえる それは耳の中からと ドアの外からだ

躊躇しながら 私は一歩足を進める

開けなければいけない 閉ざしてはならない 意識はそう命じている

ドアに手をかけて 

ああ 開かれていくドア

やけにゆっくりと

暗い外に立っていたものは  

幾千もの夜を越えて 私の元にやってきたものとは???

(妄想中)


by hanarenge | 2017-06-23 14:15 | 作文


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